各診療科目・専門外来のご紹介

乳腺外科

診療科の基本方針と特徴

日本人における死亡原因の第一位は癌(がん)です。乳癌は女性のがんで最も多く、女性のがんの5人に1人が乳癌です。また、生涯のうちに女性の9人に1人が乳癌に罹患し、この30-40年で5倍の患者数になりました。年齢では、40台後半、50台にピークがありますが、近年比較的高齢の方も多くなっており、70歳以上の患者さんも全体の4分の1を占めるようです。

対策としては、乳がん患者の著しい増加の要因として生活環境の変化がその大きな要因の1つですが、これを変える(戦前の生活にもどる)ことはおそらく不可能ですので、やはり早期発見および科学的根拠に基づいた治療を受けることです。

<乳癌の組織学的発生部位>

乳房は乳腺と脂肪で構成され、乳腺は、下図のように、乳汁を作り出す小葉と、乳汁の通り道の乳管から成り立っています。

乳癌はその乳腺実質である乳管や小葉から発生し、乳管から発生したものを乳管癌といい、癌細胞が乳管にとどまっていて周囲への浸潤が見られないものを非浸潤癌、乳管を包む基底核をやぶって周囲に浸潤があれるものを浸潤癌といいます。非浸潤癌であれば理論的にリンパ管や血管への癌浸潤がないため、全身転移のリスクはほぼありません。割合では浸潤癌が80-90% 非浸潤癌が10-20%と言われています。

<1>乳癌の治療について

乳癌はよく、全身病(診断時すでにがんが全身にまわっている、画像ではとらえられない微小転移が存在する)といわれていました。しかし、現在では(スペクトラム理論といいますが)、初期の段階では全身病ではなく、ある時点から全身病になるといわれています。つまり局所にがんがとどまっているような局所病的性格の強いガンもありますので、まずは多くの場合手術によって治癒を目指すことになります。局所に癌がとどまっている症例は、外科手術だけで治癒します。

A.手術(局所)療法

人工乳房や自己組織による再建を行わない場合、手術治療は、まず大きく分けて乳房切除術(全摘術)と乳房部分切除術(温存術)とに分けられます。とくに温存術は根治性(がんを取りきれるかどうか)と整容性(見た目、乳房のサイズと切除量で決まります)のバランスを考慮して選択されます。乳房全切除術(全摘術)と乳房部分切除術(温存術)の成績をお示しします。

BMC Cancer 2021 (434) Yamaguchi

また、乳癌の手術ではわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)も切除されます。転移の可能性のあるリンパ節を切除するためだけでなく、転移しているリンパ節の数から再発の可能性を予測し、術後の治療方針を決定するためにも重要です。しかし、最近では、臨床的にわきの下のリンパ節に転移がないと考えられる早期の症例に対しては、センチネルリンパ節生検による腋窩リンパ節郭清省略の試みも出てきました。

先ほども述べましたが、すべての乳癌が初期段階から全身病ではないので、不用意な縮小(温存)手術で微小ながんが残ると、これが再発・生存に影響する可能性があります。

B.薬物(全身)療法

全身病的性格の強い病変に対しておこなわれますが、全身病とはいえ、必ずしも転移が成立するとは限りません。うまく治療すれば転移は成立しませんので、極めて重要な治療といえます。

まず、薬物療法を行うにあたり、乳癌のサブタイプが重要となります。サブタイプとは何によって増殖するか(女性ホルモンまたはHER2タンパクそれに加え癌細胞の増殖能力の指標Ki-67)によって決定されます。

たとえば人々にいろんな個性、性格があるように、乳癌にもいろんなサブタイプの乳癌があります。治療はその人が持っているがん(腫瘍)の特徴や個性や性格に合わせて選択します。まず大きく2つに分けて、(1)ホルモン治療が有効な腫瘍(①) と、ホルモン治療が有効でない腫瘍、に分けます。後者ははさらに、抗がん剤治療のみが有効な腫瘍(②)、と抗がん剤治療+分子標的治療が有効な腫瘍(③)に分けます。つまり標準治療は、

①ホルモン治療(全体の7割)

②抗がん剤治療(全体の2割)

③抗がん剤治療+分子標的治療(全体の1割)

となります。

〈2〉乳がんの治療成績

私、山口は、2019年4月に福岡青洲会病院に赴任してまいりましたので、前任地(佐賀)での手術経験症例と成績をお示しします。

また、乳癌のサブタイプ(個性・性格)によっても予後が違って来ます。

Luminal : ルミナール乳癌

TNBC : トリプルネガティブ乳癌

乳がんの経過(予後)を左右する最も重要な因子は、腫瘍(がん)の大きさ(サイズ)とリンパ節転移の有無です。これらの因子は時間の経過を表します。つまり、腫瘍のサイズが大きいほど、また、リンパ節転移を有する人は、乳がんができて発見されるまでに時間が経過した、ということになります。ちなみに発見(診断)時の腫瘍のサイズは平均して画像上約2cm(顕微鏡でのサイズでは1.5cm)で、診断時にリンパ節転移を有する人は10人中3~4人です。

(1)腫瘍のサイズ別生存曲線(浸潤がん)

腫瘍のサイズが小さいほど経過(予後)は良好で、大きいほど不良です。

(2)リンパ節転移の有無による生存曲線

リンパ節転移のないがんは 転移のあるがんと比較し、明らかに予後良好です。

また、リンパ節転移の有無にあわせ、乳癌のタイプ別に分けて分析しても予後が大きく異なってきます。

(3)ステージ別(腫瘍のサイズとリンパ節への転移状況、を組み合わせた)生存曲線です。

 

増加しつつある乳癌に対する医療は今後ますますニーズが高まります。また、糟屋地区は乳癌診療の空白地帯でした。受診の機会を逸し、進行癌の状態で受診される方が多い印象です。当院の役割は乳癌の標準治療を提供し、乳癌の早期発見を啓発するとともに、今後、地域完結型の乳癌診療を提供することと考えます。

乳癌患者様に備え、当院では化学療法認定看護師や女性マンモグラフィー認定放射線技師、女性乳腺超音波技師を育成いたしました。また2021年度より乳房検査(エコー)および読影(マンモグラフィー、MRI)のエキスパートである放射線科の今村ドクターを迎え、早期乳癌を発見するケースが増えて参りました。

ブレストチームが一丸となって、質の高い医療、そして患者さんに寄り添いさらには患者さんと家族を支える医療、をめざしたいと思います。

<学会発表>

・59才以下 vs 60才以上の乳がん患者の予後 ―乳がん死と全死亡の比較― 
山口淳三、櫨山尚憲、上田剛資、川下雄丈、立石昌樹、阿部創世 30回日本乳癌学会総会 (横浜 2022.6)   

・播種性骨髄癌症と癌性リンパ管症を併発した乳がんの例
櫨山尚憲、山口淳三、上田剛資、川下雄丈、立石昌樹、阿部創世 30回日本乳癌学会総会 (横浜 2022.6)  

<乳腺領域に関する論文 >

Yamaguchi J, Moriuchi H, Ueda T, Kawashita Y, Hazeyama T, Tateishi M, Aoki S, Uchihashi K, Nakamura M. Active behavior of triple-negative breast cancer with adipose tissue invasion: a single center and retrospective review. BMC Cancer 21(1):434. 2021. 2-year Impact Factor (2021) / IF: 4.638
上記論文のリンクは以下に掲載
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33879104/

・Moriuchi H, Yamaguchi J, Hayashi H, Ohtani H, Shimokawa I, Abiru H, Okada H, Eguchi S. Cancer Cell Interaction with Adipose Tissue: Correlation with the Finding of Spiculation at Mammography. Radiology: 279, 56-64, 2016. IF: 29.146
上記論文のリンクは以下に掲載
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26458207

・Hayashi H, Obtain H, Yamaguchi J. Shimokawa I. A case of intracystic apocrine papillary tumor: Diagnostic pitfalls for malignancy. Pathol Res Pract: 209, 808-11, 2013. IF: 3.309

・Kuba S, Ohtani H, Yamaguchi J, Hayashi H, Uga T, Kanematsu T, Shimokawa I. Incomplete inside-out growth pattern in invasive breast carcinoma : association with lymph vessel invasion and recurrence-free survival. Virchows Arch 458: 159-169, 2011. IF: 4.535

Imamura T, Isomoto I, Sueyoshi E, Yano H, Uga T, Abe K, Hayashi T, Honda S, Yamaguchi T, Uetani M.Diagnostic performance of ADC for Non-mass-like breast lesions on MR imaging. Magn Reson Med Sci. 9(4):217-25, 2010.  IF: 2.76
上記論文のPDFは以下のリンクに掲載
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mrms/9/4/9_4_217/_article/-char/en

・Kuba S, Yamaguchi J, Ohtani H, Shimokawa I, Maeda S, Kanematsu T. Vacuum-assisted biopsy and steroid therapy for granulomatous lobular mastitis: report of three cases. Surg Today 39(8):695-9, 2009. IF: 2.54  

Yamaguchi J, Ohtani H, Nakamura K, Shimokawa I, Kanematsu T. Prognostic Impact of Marginal Adipose Tissue Invasion in Ductal Carcinoma of the Breast. Am J Clin Pathol. 130: 382-388, 2008. IF: 5.4
上記論文のリンクは以下に掲載
https://www.researchgate.net/publication/23169154 Prognostic Impact of Marginal Adipose Tissue Invasion in Ductal Carcinoma of Breast

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